不便益のところでも登場した、主観と客観という構図は、実は「何を」「どこを」「どのように」見つめているかなどを、非常にわかりやすくしてくれます。
ことづくり生活では一般論を鵜呑みにするのでもなく、”どこかにあるかもしれない”客観よりも、主観の方を大切にしています。そして主観をもった個人の集まりも大切にしています。
美術教育の場面で同じ活動を同じようにさせる模倣的活動もありますが、この場合の出来上がりはみんながほぼ同じになります。そこで要求される能力は完成度、つまり知識技能(技術)の集大成としてのモノです。
ところが表現作品(モノ)の出来上がりが全く異なる問いかけもあります。「想像してつくる」活動です。この場合は、その対象に向かう想いがどれだけあるか、どこまで深く掘り下げたかなどのプロセス(過程)が重要です。
教育用語で表すと、前者を能力形成、後者を態度形成と分けることもできます。過程重視の姿勢では、資質能力の面から深い学びや人間性などにつなぐこともできます。
先ほどの子供に絵を描かせる場合のことです。
まなびあい勉強会にお招きした際の、兵庫教育大学副学長の福本謹一先生のお話です。
おひな様を描かせたいろんなシチュエーションの絵を提示してくださいました。
そしてその絵の投げかけは「おひな様はずーっとすわりっぱなし。ひな祭りが終わったらなにをしたいのかな」だそうです。
そうすると、バスで旅行に出かけたり、遊園地に行ったりとさまざまなことをさせた絵を描いています。
これは「学びのしかけ」と呼ぶこともあります。これによって子供たちは自分の生活に落とし込んで様々な発想を広げます。
サンタクロースの事例もご紹介頂きました。
冬のサンタを描かせるとみんなほぼ同じになるそうです。ところが夏には何をしているかの絵を描かせると、子供のさまざまな発想が絵のテーマに発揮されるそうです。多様な姿や行動のサンタさんが登場するようになるのです。
これは大人が描かせたいサンタではなく、子供が描きたいと思ったサンタです。
この事例からも「答えは常に子供の中にある」という指導者の首尾一貫した態度がうかがえます。これは多様性を重視した活動の一環とも言えます。
このように、何を手掛かりに、何を参考に、何を根拠にしても、最終的な答えはあなたの中にあるのです。
独我論とは自分の意識のみの存在で帰結します。懐疑論は自分すらも否定します。
様々な理論がある中で、ことづくり生活では現象学的な立場を取ります。あなたの主観と私の主観、そこにある共通了解を探りあう姿勢。
答えは誰かに示されることでもどこかにあることでもなく、あなた自身が探し、あるいはお互いに、引き出し導きだし、そして組み合わせたり高めたりしながら未来志向を大切にする姿勢。
これがことづくり生活において大切にしている
・自分を大切にする
・自分と周りを俯瞰する
といった基本姿勢となるのです。